藤井風を語る真夜中

風という病に侵され…語らせたまえと願った。

今さらHEHN語り⑤

4️⃣ キリがないから

この曲も2番のない曲。同じ歌詞を繰り返すが、何の違和感もない滑らかさ。風氏の歌唱がいかに凄いか、ホントに軽く聴き流したら勿体ない。その声が織り成す空気感の中に、ゆっくりゆったり遊ばないと勿体ないオバケが出る。

最初の “yes” からフェイクがカッコイイったら。「抜く声」が色っぽくてたまらん。何故そんな声が出るん? 何を経験してきたん? と問い詰めたくなるが、実際は海外の曲を山ほど聴く中で自分のカラダに取り込んだんだろうな。

力を抜いた歌声がこんなに澄んで聴こえるなんて。吐息混じりなのにイヤらしくない、まさに中ニの声で歌っているような清潔感がある。

この曲、もっと泥くさく熱く、若さのもがきを描く音でもアリだったと思うが、Yaffleさんの近未来を思わせるアレンジがクールで、ある意味、風っちの熱をクールダウンさせてる感がある。最後の含み笑いは何なんw。しょーがねーな、という中ニ病の自分への笑いなのかな。

MVでは、倉庫みたいな場所に、エネルギーの切れたアンドロイド(充電中)を相棒に暮らす青年。ヴィンテージっぽいコートが似合う。

充電が完了したのか、アンドロイドくんも起き上がり、空を飛ぶように車でドライブ。この曲から、この画を発想するダチオ監督、凄いよなぁ。

フクロウは未来を見通す知恵の象徴。使い古されたモノたち、古い絨毯、古いテレビ、古い本は過去の自分。

アンドロイドを運転手にして、何処へ向かうのか。 ホントは未来より過去へ行きたいのかも知れない。でも実は未来も過去もない、今があるだけ。ほら、気づいたよね、何処にも行けないんだと。ただ「今」を生きるしかないって。

十四の、中ニの自分を引きずってもキリがない。未来を思い描いてもアトがない。今だけ、ここだけ。過去に別れを告げ、遠い先を見ずに。未開地を切り裂くように、今を生きろ。

風氏にしか描けない地図が、ここにはある。愛おしい過去、晴れやかな未来、どちらもあるようで、実は無い。それらは心の執着であって、現実にあるのは「今」だけ。その今に全集中常中するしかない。

執着から離れた時、自由になれるんだ!と俺らを鼓舞してくれる曲。

 

アルバムの1曲目からここまでが、MVのある曲。あとは最後の『帰ろう』。本当は全曲MVで観てみたいけど…贅沢過ぎか。でもあまりの役者っぷりを見ていると、こんなに多彩な表現力を持っている風氏を、もっともっと映像で観せてほしいと願わずにはいられない。

 

5️⃣ 罪の香り

驚くような爆音で始まるのは罪の重さ、烈しさを象徴しているのか。罪との戦いの熾烈さを表しているのか。

英訳では『Flavor Of Sin』。 Sinとは罪のことだが、より宗教的、道徳的な罪を意味するという。そう言えば「シナーマン」(Sinnerman)は罪人の意味で、以前夢中になった英国ドラマ「SHERLOCK」でBGMに使われてたな。と、今思い出した。贖罪などしない犯罪者のBGMではあったけれど、曲は神への贖罪を歌ったもの。自分では全く意識していないところに贖罪はあり、誰しもが許されるべき罪人(つみびと)であるのかもしれない…と、あのシナーマンを聴きながら思ったなぁ。(関係ない話、すみません)

人間の本質的な罪が、深くも浅くもある様々な罪を引き寄せる。怠惰や弱い理性やエゴ、欲望…心に巣食うモノが罪を呼び寄せ、取り返しのつかない『全部消えて無くなる』まで我々を堕としていく。

でも、気付いたならまだ早いよと。まだ間に合うから、誘惑に打ち勝ってヤメたらいいと。鼻が利きだした自分を信じて。

『救いは必ず来るもの』これが風氏の本領。こんなダークサイドを描きながら、実にポジティブ。ダークサイドに溺れない、罪に甘えない藤井風氏の精神が素晴らしい。どこまでも、みんなを許そうとする世界観。罪に落ちる人の弱さを理解しながら、恥じることはない、怖いものなどないと、罪の香りに負けないよう諭してくれる。

メロディと歌詞、そして歌声が、罪人たる自分を赦してくれるようだ。何と深くいい声なんだ。この声に泣くよ。

 

6️⃣ 調子のっちゃって

気怠く歌いながら、子供の頃読んだ絵本の世界に誘ってくれる曲。胸に痛みを覚えるほど素直で直裁な歌詞、こんなに自分には厳しいんだな風氏は。

自分ごととして受け止めたい一節一節。やはり自分にも調子のっちゃう瞬間があるから。惨めさを隠せない時があるから。

『当たり前なんてない 自分のモンなんてない』…この言葉こそ、一生抱きしめて生きていきたい言葉。こう思えば、全てに感謝しかない。

『探しても見当たらない』子は、調子に乗ったタレントと、その姿に幻滅して去って行ったファンの関係を思わせる。そんなザマになるなよ、と戒めているようだ。が、より本質的には、自分の内にいた、心の真っ直ぐな子ではないだろうか。驕ることなく、カン違いすることなく、調子のることなく生きていた子が、もう自分の中には居なくなってしまった。探しても見当たらない。これほどの寂しさがあるだろうか。

大切だった『あの子』を見失わないように…と歌える風っちは、絶対に “調子のっちゃって” にならない人。ま、分かってるけどさ。こんな曲が作れる彼の心のステキさに、何度でも感動するのだ。

 

 

日本各地で長雨や豪雨の被害が出ているけど、皆さま無事だろうか。心からお見舞い申し上げます。

どうか早く、日本中が藤井晴れ、河津ブルーの空になりますように!