藤井風を語る真夜中

風という病に侵され…語らせたまえと願った。

NHKまとめ②

コロナ禍で不安に満ち殺伐とした空気が流れる中、多くの人の共感を集めた曲『帰ろう』。

「要らないネガティブなものを手放す、そういうふうに生きていきたいな、という曲」

 

「もうほんと、無駄な曲は一切作りたくないっていう」「1曲でもいまいちやなと思われたら悔しい、みたいな」「自分が自信を持って誇れるものだけを」「何かしら意味のあるものしか出したくない、というのは “絶対” ですね 」

楽曲づくりへの、初めて聞く強い言葉たち。無駄な曲とは何ぞや? この世に無駄な曲なんてあるのか? という問いも浮かんでくるが、風っちの思いは「自信を持って誇れる、意味のある曲しか出したくない」ということなんだろう。それ以外は無駄な曲である、と。

 

以前ラジオで言っていたが、自分は負けず嫌いなんだと。まあ、負けず嫌いでなければ、あそこまでピアノも上手くならない。ピアノだって英語だって、あんなに上達するってことは、負けず嫌いがヤル気に火を点けるから。デキない自分への悔しさを努力に転化できるほどに、負けず嫌いなんだよね。

そんな、ちょっと尖ってる風っちを、今回は見せてくれた。実家ゆえの構えない素直さで語ってくれたのかな。NHK取材チームとのいい関係もあってのことだよね。

 

8月15日。土砂降りのスタジアム。広さに感じ入る風っち。無観客のスタジアムから無料の生配信。誰もやったことのない試み。「こんなところで、おのれだけでする人いない」「おのれとの戦いです」「おのれだけっすね」

痛いほどの覚悟。怖いに決まってる。でも、その怖さや不安が表に見えたら、みんなをリラックスさせることはできない。だから余計におのれとの戦いが厳しいものになる。

 

しかし、おのれ(己)って言葉をリアルで使う人を初めて見たな。独特な言語センスを持つ風っち。この独自性があるからこそ、あの素晴らしい歌詞が生まれるんだなぁと実感した。

 

今回の “Free” ライブに込めた思い。自由。束縛からの解放。

人を興奮させるライブではなく、「みんなをリラックスさせる、みんなの力を抜く」「手放して楽になってもらう、その考えが自分の根底にある。そういう感覚をちょっとでもシェアできるライブに」

観客を盛り上げるよりも、さらに難しい挑戦。だが、あの美しい芝生、雨、無観客、その全てがリラックスと癒しに通じていた。結局、願った通りのライブになったのだ。実に強い、運命を引き寄せる強さを持った人。

 

ライブ・エンタメ業界においても、この試みは大きな意味を持つ。成功するか否か、いやでも重圧を感じるような期待が、このライブにはかかっていた。

 

8月24日。大勢の思いが込められる中、リハを重ねる風っち。

「ボロいピアノで練習したおかげで、打鍵する音がビートになると思ってて。ピアノ1台では普通は物足りないリズムというところでは、負けたくないなっていう」

ここでも負けず嫌いが顔を出していた。誰にも負けない打鍵の強さが自信になっている。

確かに、風っちのピアノはリズム隊の音が聞こえる。打楽器としての豊かさ、深く濃い音。幼い頃から、どれほど練習したんだろう。ボロいピアノだからじゃないよ、とてつもない練習量が背景にある。弾き語りを唯一無二のものにした “努力”。それを支えた負けず嫌いの魂に拍手!

 

『Heal The World』リハの歌もいいなぁ。取材チームは、こんな生歌をずっと聴いていたんだよね、羨ましい!

MCの注意点をアドバイスするずっずさん。対する風っちはOKと言いながら、信頼に満ちた甘えた目(笑)をしている。

「自分が相当がんばらんとっていうのは、最初から見えていた」「自分磨き、がんばらにゃいけんなっていう」

そのひとつが “場” に慣れるための走り込み。本番の3週間前からスタジアムの周囲を、来る日も来る日も走り続けた。

ずっずさん、コバさんも一緒に走る。密着しているNHKチームも必然的に走る。みんな凄いな。風っちをひとりにしない。どうしたって本番で歌うのはひとり。でも孤独ではない。風っちの心を支えるため、一緒にがんばるチーム風。

 

8月28日。本番1週間前のリハ。

泣くような目でカメラを見て「んー」と呻(うめ)くように。「今日はあんまり調子良くない日」

ごめん、心配するより先にかわいっ…と思ってしまった。かわいいよーそんな言い方されたらたまらんよーと俺の父性(あるんか)が叫んだ。でも、ホントにキツかったんだなこの日は。

途中からマスクで目元を覆った。目隠ししても何の問題もないピアノが凄い。しかし、風っちの気持ちはしんどそう。

ちゃんとラスト曲まで歌い切ってから「ふん…やだよ」「だってなんか今日めっちゃ見てくるんやもん」と周囲を指さす。すかさず「俺は見てないよ、勘違いも甚だしい、全く見てない」と、NHKチームを嫌がってるわけじゃない、俺のことやで、とフォローするずっずさん。秒速で機嫌のよくないタレントとマネージャーの痴話喧嘩に持っていった。

それでも「めっちゃ見てくる…」と言う風っちに、「声が裏返るな」と指摘して話を変える。風っちもそれを気にしてたから、素直に聞いている。

イヤイヤする子供みたいだけど、決して密着チームに対して「出てくれ」とは言わず、自分の目を隠すという方法を選ぶ風っち。他人の仕事を尊重しながらも、降りかかるプレッシャーにギリギリで耐えたリハだった。

 

この時の苦しみさえも、俺らのために晒してくれる風っち。こんなにもがいて闘っていたんだとシェアしてくれる。いいこともよくないことも、みんなもいっぱいあるよね、一緒なんだよと。

不調な時もあると、みんなと同じだよと教えてくれる風っち。自分を高みに置かない、俺らと手を繋いでくれるような人だから、大好きなんだよ。見上げるしかないような人なのに、拗ねたり甘えたり、かわいくて仕方ない。ホンマに父性(どこにある?)が疼いて困る。笑

 

あらら、③までいくか…【つづく】